2年程前。
勤めていた会社はアプリ開発のための人材不足に陥っており、一刻も早く使える人材を確保しなければいけない、という状況だった。
多くの開発会社ではおなじみの状況なんでしょう。
いくつかの募集媒体へコストを投下し人材を募ったが、これという人材を発掘することは出来なかった。
ちょうど、DeNAやGREEやサイバーエージェントあたりが、高報酬でガッツリ人材を確保しにいっている時期だったかと思う。
あえてこんな小さな会社を選んで応募しなくても、大手が札束を餌に網を張っているのだから、そっちにいくだろう、と思った。
そうなると結論はひとつしかなかった。
時間をかけてでも、人材を新たに育成するしかない。
元々以前から、人材育成には興味を持っていた。
というより、自分の力だけであれこれやるには体力もついていかないし精神力も弱くなってきているし、いつか精魂尽きるのは目に見えてるのだから、出来る人間に出会える確率よりも、新しく使える人間を育成するほうが確実だと思っていた。
どのみち人を探すのには時間がかかるので、同時並行で人材育成を進めていけばいいじゃないかという事になった。
ちょうどその頃、WishScopeというニーズと人とのマッチングサービスが開始されており、これを使って人を集ってみようということになった。
私が育成ターゲットに考えた人物像は以下のような人。
- できればプログラミングの経験が全くない人
- 25歳より下の若い人
- 意欲的でポジティブな人
- 女性
これからアプリ開発を出来る人材として育てる上で、既存のIT知識は逆に不必要だと考えました。
多少知識があった方がすんなり覚えられる気がするのですが、今までの経験上、プログラマは頭が硬いというか固定概念にとらわれやすいというか、新しい事実を自分の持っている知識の中で解決してしまおうとする傾向があったので真っ更な頭の持ち主の方が好ましいと考えました。
それにできるだけ若くて頭が柔らかい方が良いのです。
達成意欲があり、障害に立ち向かえるポジティブさを持っていれば尚更良いというのは言うまでもありません。
コミュニケーションがしっかり取れない人も、私はプログラマに向いているとは思えません。
後、「女性」は過去にもプログラマとして育てたことがありますが、めんどくさい作業をコツコツとストイックにしっかりこなすことができるという強さを持っていると思います。
それに女性のプログラマがいるとなんか華があるでしょ?
そんなことで、実際に募集をかけてみました。
内容は「アプリ開発を出来るようになりたい人募集!給料は出せないけど、事務所まできてくれたら1から教えます!」みたいな感じだったかと思います。
こんなんで募集がくるんか、と思ったものの多くの人の興味を引いたようで、実際に会って話を聞いてみたいという人も何人かいてびっくりしたのを覚えています。
その時に応募をしてきたのが、Kentaでした。
彼は見た目はいかにも少年で、カッコイイというよりは可愛いと言えるキュートな顔立ち。
半袖ハーフパンツにバックパックを背負って来社するという、いかにも若者でした。
しかし、話をしてみると、考えていたような今どきな若者ではなかったのです。
非常に真面目でとにかくピュア。言葉もしっかりしており、なにより意欲がすごかった。
プログラマになれるのならば、何を捨ててでも頑張るという覚悟をもっていました。
これはもうこの子しかおらんなーと思い、志望動機を聞いてみると
「プログラマってモテそうだから」という純粋に不純な動機w
即採用で彼をアプリ開発者に育成することが決まりました。
その後色々と話を聞いてみると、なんとまだ19歳で大学1年生。
親の都合で海外生活の方が長く英語はペラペラ。
大学も偏差値ランキングで上位に位置づけされているような所。
こいつ完璧エリートやんという思いと、そんな人間に自分なんかが教えれることがあるんだろうかという思いと、複雑でした。
ということで、Kentaのプログラマ育成が開始されたわけなのですが、彼は現役大学生のため会社にこれるのは1日に2〜3時間と、授業の都合でこれない曜日もある。
それでも期末テストの前後以外はしっかり毎日きていたし、夏休み期間中も遊びに呆けず、ほぼ毎日くるというとても熱心な生徒でした。
(ちなみに会社からは交通費は支給してあげて、お昼も毎度色々な所に連れて行っておごってあげていたが、何を食べさせても「めちゃくちゃうまい」といって喜ぶw)
一番初めは「インターネットとプログラムの仕組み」について口頭での講義を行った。
最初なので何を言ってるのかわからないとは思いますが、それで良いと思うのです。
わからないなりに必死にわかろうとする姿勢が必要だし、わからない言葉をあとで自分で調べてみるなんて努力も必要なわけで、後々、あの時しゃべっていたことはこういうことだったのかと思い起こしてもらえれば良いくらいの考えです。
そして、次にさせるのは「LAMP環境での掲示板システムの作成」。
大体プログラマの最初のステップとしてやらせている会社も多いのじゃないかと思いますが、掲示板の仕組みを通して、Webの仕組みやCRUDの基礎知識を習得することで、
これからのあらゆるプログラムに対しての基本的な考え方が作られるのではないかと思います。
アプリ開発を始めるのにこの工程が必要なのかどうかは定かではないですが、
どのみちアプリ開発をする上でWebと触れ合う機会は必ずあるし、覚えていて損は絶対にないと言えると思います。
そして、いきなりアプリ開発を始めるよりも、Webを理解してから入ったほうが良いと考えています。
彼は必死にLAMP環境を構築し、まずはPHPのイロハのイから初めていく。
書いたプログラムがブラウザを通して動く、そんな当たり前の事に感動する。
これって実はこういう仕組みで動いているんだよっと詳しく補足する。
telnetを立ち上げて、サーバーとはこういう情報を通信しているんだというのを実践して見せてやる。
そんなことをしているうちに、彼流の掲示板が完成する。
次はじゃあこれに、削除機能をつけてみて、とか、管理者ログイン機能をつけて、管理者が変更できる機能をつけてみて、とか、投稿を検索できる機能をつけてみて、とあれこれ注文をつける。
試行錯誤、あれこれ調べて彼はそれを作り上げていく。
フレームワークなんかは当然使わせない。勉強にならないから。
多く質問されることもあったが、答えを単に教えるのではなく
その答えに行き着くまでの考え方と、その考え方に行き着くための情報収集の仕方を教えた。
エラーが出たらとにかくまずはググれと教えた。
調べて解決する能力さえあれば、プログラマとしてやっていけると思うから。
彼は英語が読めるので、そこは非常に良いアドバンテージだったと言えると思う。
結局掲示板を作るのに、2〜3ヶ月はかかったと思うけど、十分なペースだと思う。
得たものも、単に「掲示板を作る方法」だけではなかったと思う。
PHPの勉強が一段落したら、iPhoneアプリの作り方を勉強していくフェーズに移った。
まずはUIKitを使って、ボタンを表示したり、リストを表示したりCoreDataを使ってみたり。
かなり取っ掛かりは苦戦をしていたみたいだけど、しばらくすると自分なりにゲームを作ってみたりして、
射的ゲームを作っていたのだが、絵心のなさにびっくりしたw
しかしながら、自分の頭のなかで考えているものを形にする、ということが実践できているように思った。
その辺からはほぼ質問を受けることもなく、自分で調べながら作っていくという事をやっていたと思う。
どうしても理解できない動きなんかには苦戦をしていたが、考え方を教えてあげて助け舟を出してやったりした。
そして、色々他の仕事の絡みやらなんやらがあり、彼は別の仕事でも手伝うことができることがあったのでアルバイトへ昇格した。
ほぼ同時期に、私は会社を離れることになった。
会社を辞めた後も、彼の教育は続けようと思っていたので、いつでも質問をしてきていいよと言っていたのだが、この頃になるとほぼ質問はなくなってきていた。
そうして今に至るのですが、最近彼はどうしているかなーと思っていた所、スカイプで彼からメッセージがあり
「やっと自分で作ったアプリをApp Storeへ出すことができました!」
というメッセージが送られてきた。
なんかもう自分で初めてアプリを作ったってくらいに嬉しくなった。
その後も彼は他の仕事をしながらもコツコツと勉強を続けていたのだという事実に胸が熱くなった。
はっきりいって、彼の先生になれてたかというと、そこまでしっかり教えてあげることができてなくて、自分が教えてあげたなんていうのはおこがましいのですが、
やはりこうして一人の人間がプログラマとして成果を発表できたことはとても嬉しく思えるし、やってよかったなと思える。
人の成長を見るのが自分のことのように嬉しいし、プログラマはある時期をすぎるとこうなっていくのかなと思いました。
彼の作ったアプリは、まだまだ荒く、でもKenta流のテイストもあり、これからの成長を期待できるものだと思います。
ちょっと意味がわからない部分もあるけれどw
何かを作るってのいうのは本当に良いものですね。
コメント
このご時世、技術者の教育をする心意気が大好きです。
「技術者は自分で出来る」と天才のように勘違いしている会社も多々ある中、社員ではないにしろ育て上げた意味は大きいと思います。
わからないことは調べるという能力が必要とお考えのところも共感です。コンピュータの分野は一人で理解出来る範囲を超えていると思います。頼るのはネットや他の人でもいいと思います。
自分もこういう育てる側の経験してみたいですね。
いい話ありがとうございます。